梅雨が明け、酷暑が続いている。火を使う料理を億劫に感じ、この季節はどうしてもサラダの出番が増える。

私の定番、小松菜を洗い、食べやすい大きさに切り、ぶつ切りにしたきゅうりを添える。網に入れて冷蔵庫で冷やし、パラパラと海塩を振る。

そして、この夏、何十年ぶりかで再開した儀式がある。きゅうりのアク抜きだ。

両端を切り落とし、その断面同士をくるくると擦り合わせる。しばらくすると、じわじわと白い泡状のアクが浮かび上がってくる。子どもの頃、両親が当たり前のようにやっていたあの所作だ。たったこれだけの手間なのだが、私には、青臭さがやわらぎ、瑞々しさが増したように感じる。 

昔、テレビで見かけた大物歌手の話を思い出す。行きつけの中華料理店のもやし料理についてだ。あまりに美味しく、店主に理由を尋ねたそうだ。答えはシンプルで、もやしのヒゲ根と芽を一本ずつ手作業で取り除いているから。その話だけは、不思議と何十年たった今でも覚えている。

もやしのヒゲ根と芽を一本ずつ取る手間に比べれば、きゅうりのアク抜きはほんの一瞬で終わる。

きゅうりの値段は日によって乱高下するけれど、どんなに手頃な食材でも、手をかけることで特別になる。ひと手間を惜しまない日が、案外いい一日なのかもしれない。何気ない毎日であっても、小さな手間を重ねるだけで、少しだけ味わい深くなる。そんな予感が、かすかな希望になる。 

書いていたら、無性にもやし食べたくなってきた。暑いけれど、今夜は、もやし料理に挑戦してみようと思う。